昔から米粒の中心付近に見られる円形もしくは楕円形の白色不透明な部分である「心白」の発現する大粒種は酒米として好まれてきた。心白米は、より吸水性が良く、こうじ菌が進入しやすくし、糖化を容易にする。
その中でも、「雄町米」は心白の発現が良好な大粒種で、酒造好適米の最高級品種として全国的に知られている。百年以上も前に見つけられ現在も栽培されている品種は雄町だけであり、その大半は岡山県内で栽培されている。酒質の良し悪しは、なんといっても原料米の品質によるといっても過言ではない。
昭和50年代に入り雄町再興の気運が高まってきたが、徐々にしか増加しなかった。
岡山県としては、全国的な良質米の生産振興を背景に、昭和63年度から平成4年度までの5年間「おかやま雄町米GOGO運動推進事業」を実施し、平成4年には作付面積が拡大し、岡山の特産米として再興することができた。
さらに、平成4年の清酒級別廃止に伴う吟醸酒等の特定名称酒の原料として、酒造業者からの需要増大に対応して、平成5年からは、一層の生産供給の拡大をめざして、「岡山酒造米新生産団地育成事業」により新生産団地の育成に取組んだ結果、作付けは着実に伸びており、平成9年には430haになっている。
優点 | 酒造好適米(日本で最も高価な米の一つ)、雄町米でできた酒は、独特のやさしさとまろやかさがある。 |
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欠点 | 倒伏と収量が少ない。また、栽培が難しい。 |
穂数 | 217本毎平方メートル(平均) 千粒重 26.1g(平均) |
精米する時 | 米粒の中央にある白色不透明の部分を心白と呼び、でんぷん質のつまり具合が粗であるため、乱反射して白く見える。時間をかけて外側から精米しなければ良い状態で心白粒を残せない。 |
洗米、侵漬 | 心白部分が粗であるため、水分を吸いやすく壊れやすい。 |
蒸し米 | さばけが良く、外硬内軟なものになりやすい。 |
麹をつくる時 | 麹菌の菌糸が中に伸びやすく、つきはぜ型の麹ができる。酵素力価バランスの良い麹ができ、酒母、もろみでの糖化も良い。 |
仕込み(もろみ) | 長期型もろみになりやすい。 |
酒質 | 適度な旨味のある酒になる。酒質にまろみがあり秋あがりする。 |
その他 | 心白は玄米の中央に位置し、大きさは玄米2/1以内がよい。粒は大きく豊満でかつ、粒ぞろいの良いことが望ましい。一般米の倍近い価格 |
今から約150年前の安政6年(1859年)。岡山県上道郡高島村大字雄町(現岡山市中区雄町)在の篤農家、岸本甚造氏が伯耆大山(鳥取県)に参拝した時、その帰路でふと足元を見ると、畦道におおいかぶさるように一段と重そうな変わり穂を見つけた。
「これはよい穂だ。」
早速二穂を譲り受け雄町に持ち帰った。選抜を続け、慶應2年(1866年)にこの新種に「二本草」と名付けた。
雄町に良い酒米があるとのうわさが広まり、分けて欲しいという希望者が殺到した。
その後、県南部をはじめ当地一帯で栽培されるようになり、米の名前もいつしか雄町の名をとり「雄町米」と呼ばれ広まった。そして、雄町は明治21年には最北部を除く岡山県下全域に普及し、その後他県へも広がった。明治41年には岡山県の奨励品種に採用されている。
雄町は主食用として流通していたが、酒造では醸造原料米として、大粒で心白があることが条件の一つとされ、心白の大きい「雄町」の酒造好適米としての評価は極めて高まった。
各地酒造家から「岡山県産の雄町」が酒米に最高の品質と賞賛された。
雄町は酒造好適米としての優秀性から各地で交配種として使用され、現在最上とされる酒造米山田錦(大正12年に兵庫県農業試験場で「山田穂」を母、「短桿渡船=雄町の血を受け継いでいる品種」を父の交配でできたもの)や酒造好適米作付け第一の五百万石等の、優良品種を作り出した。
現在では、酒造好適米の約6割に「雄町」の血が受け継がれている。
雄町は、質・量とも全国の酒造家において名声をほしいままにし、酒米の王座を譲らなかったが、食用米の確保に主力がそそがれるようになったこと、栽培の難しさなどから次第に生産量が減り、全国の酒造家に渇望されながら入手できなくなったことから“まぼろしの米”と言われるようになった。
雄町は岡山県中南部で9月上旬に出穂し、10月下旬に成熟期を迎える晩生種に属する大粒種である。草丈は115cmと著しく長く、茎は太く、穂は長丈で白色の長芒がある。玄米は粒形が極めて大きく、ややうるんだような心白をもち、銀白色をしている。
適地は岡山県中部及び中部以南の花崗岩の崩壊した壌土もしくは砂壌土で、土壌が深く排水の良好な水田での栽培に適する。
雄町は草丈が長いため、倒伏しやすく、また、いもち病など耐病性に弱く、収量性が低いなど栽培面で難点をもっている。